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【ピアニスト】藤田 真央


2018年5月27日(日)開催『アクト・ニューアーティスト・シリーズ2018』 出演【ピアニスト】藤田 真央 インタビュー

5月27日、「アクト・ニューアーティスト・シリーズ」に登場するのは若干19歳で昨年の第27回クララ・ハスキル国際ピアノコンクールで優勝し、そのテクニックと力強い演奏で多くのファンを虜にする若きピアニスト藤田真央さんです。あどけない笑顔が魅力の藤田さんに、演奏活動への思いと現役大学生の素顔に迫りました。

最初に、ピアノとの出会いについて教えてください。

 2歳上の兄がピアノをやっていたので、その流れに乗って習い始めました。中学くらいまでは一緒でしたが、その後は私だけが続けていく形になりました。

一昨年、浜松国際ピアノアカデミーに参加された感想をお聞かせください。

 中村紘子先生のいらっしゃる最後のアカデミーに参加しましたが、非常に和やかな雰囲気で、素晴らしい先生方が多くいらっしゃいました。特に紘子先生のレッスン前はとても緊張して、ずっと胃が痛かった思い出があります。雲の上の存在でしたので、何かすごいことになっちゃったなぁと思いながら。結局、とても優しく時折お叱りを受けながらも足りない所を指摘していただきました。

昨年、スイスで行われたクララ・ハスキル国際ピアノコンクールに優勝、一躍世界に注目されました。その後、変化していることはありますか?

 個人的には今までどおり、曲を探求して一音一音創り上げていくことに変わりはありません。ただ、コンサートに出る機会がとても多くなったので、また来たいと思っていただけるような演奏をしなければ、と強く感じるようになりました。優勝後は、友人たちも「おめでとう!」と言ってくれましたが、人というのはすぐに忘れますから、もう何とも思ってないと思います(笑)。急にモテたり?・・・それはないです。

東京音楽大学では、特別特待奨学生としてどんなレッスンをしているのですか?

 ピアノ演奏演奏家コースエクセレンスというところに在籍していて、レッスンの先生が3人いたり、レッスン時間が1時間半だったり。他の大学より長い時間レッスンしていただけるので非常に良い環境だと思います。それ以外は他の学生と同じで、必修科目はありますし、公欠がきくわけでもないので単位を取るのが大変です。ヴァイオリニストの辻彩奈さんが大学の先輩でよく話しますが、同じ感覚を分かち合っています(笑)。

今までに多くの著名ピアニストのマスタークラスを受講されていますね。いろんな先生のご意見を聞くことで、迷ったり解釈に困惑することはないのですか?

 特に困ったことはないですね。まず、その先生方の解釈を全て受け入れた後、自分でチョイスしていくのが私の仕事だと思っています。その人はその人の素晴らしい解釈を持っていますし、最終的には先生が教えて下さる解釈を自分なりに選び取って、より自然に自分のものにするということですが、それが一番難しいですね。

将来、海外で学んでみたいという気持ちはありますか?

 それは、常々思います。ただ、素晴らしい先生はたくさんいらっしゃいますが、色々なことを加味して考えなければいけないので、まだ少し先かなと思います。

趣味もピアノというのは本当ですか?

 今はピアノしかすることがないので。コンサートの翌日も1日休もうと思うんですが、午前中休んだだけで何か気持ち悪くて、すぐにピアノを弾きたいという気になっちゃいます。他に好きなものと言えば・・・プロ野球ですかね。DeNAベイスターズがずっと好きで、夏はプロ野球も見ます。実は父と祖父は巨人ファンで、それに反発したんですよ。万年最下位だったのが最近強くなったのが嬉しくて。いつも僅差で負けるんですが、たまにドラマチックな展開をする時があって…それを見ると、すごく心惹かれます。昨年の日本シリーズ第6戦を、横浜でチャイコフスキーのコンチェルトを弾いたコンサート翌日に福岡まで見に行きました。結局、盛大なサヨナラ負けをしましたが、見られて良かったです。

尊敬するピアニスト、またピアニスト以外で好きなアーティストは?

楽器博物館では、ホルンやチターに興味津々・・・

 今好きなのは、グリゴリー・ソコロフというロシアのピアニスト。生で聴きたくても、飛行機が嫌いという理由で絶対日本には来ない方です。昨年8月、ちょうどミュンヘンに演奏しに行ったとき、彼がザルツブルク音楽祭で弾くということに気付いたんです。「行けるかも」と思ったら、実は私が弾くのと同じ日でした!非常に悔しかったですね。しかもベートーヴェンのソナタ32番という同じ曲を同じ時間から一緒に演奏し始めました。後でネットを見たら、ソコロフは40分くらいかけて弾いたのに僕は25分で弾いちゃった(笑)。繰り返しもちゃんと弾いているのに、です。あとは、音楽に関係ないんですが、チェ・ゲバラというキューバ革命に成功した革命家を尊敬しています。彼の人生全てに感銘を受けましたね。キューバは言ってみたい国の1つです!

チェ・ゲバラのどんなところが魅力なのですか?

 彼はアルゼンチン人なのですが、医学部に行って高い教育を受け、旅することが好きな人でした。メキシコでカストロというキューバの前議長に出逢い、友好関係になったのです。カストロはキューバ人で、その当時の独裁政権をどうにかして奪回したいというカストロに医学部隊として同行しました。メキシコから82人のキューバ人と彼を加えた83人が船に乗ってキューバに上陸。その作戦が敵にばれて、一気に十数人にまで減り、キューバ人たちは山に逃げました。相手は何千万人という部隊だったのに「こんなに生き残った」「それならこっちのものだ」とカストロは言って。チェ・ゲバラはゲリラ戦でようやく政権を奪回し、カストロが大統領、チェ・ゲバラは第2位の地位を得ました。ところが3、4年して、ボリビアで起こっている内戦に力を貸してくれという依頼があった時、その地位を捨ててまた戦ったんです。過酷な戦いをして革命を成功させ、富と名声を手にしたにも関わらず、全てを捨ててまた一から始める革命家はおそらく彼くらいでしょう。そういった姿勢がとてもカッコいいなぁと思います。
 結局39歳で命を奪われますが、その時の言葉がまたカッコいい。世界で最も有名な革命家である彼を射殺しようと震える人に向かって、「お前はただ一人の人間を殺すんだ。さあ、引き金を引け」と彼はこう言ったんです。自分が今から殺されるという時に、そんな言葉が言えるかと。彼の人生全てに感銘を受けました。キューバは行ってみたい国の1つです!

今年はいよいよ成人ですね。20歳になったらしてみたいことはありますか?

 うーん、何だろう。お酒はたぶん弱いと思います。父と兄はすごく飲むんですけど、母は飲めないので。19歳と20歳の境目というのは非常に大きいと思います。人間的にもピアノの技術的にも成熟した演奏をしなければと考えています。今年はコンサートでコンチェルトを弾く機会がたくさんあるので楽しみですね。

中でも一番楽しみなのは?

 サントリーホールで10月に小林マエストロと演奏するベートーヴェンの「皇帝」が楽しみです。サントリーホールは中学2年の時、大友マエストロとプロコフィエフのコンチェルトを演奏して以来なので久しぶりです。その時は楽屋が広いなぁ、と思いました。ふかふかのソファがあって、思わず寝入ってしまったら「出番だ」と起こされて(笑)。懐かしいですね・・・その時は全然緊張しなくて、オーケストラとの対話も楽しめました。演奏後、2千人のお客さまの前でインタビューを受けた時は逆にすごく震えてしまったのを覚えています。
他には、6月に東京都交響楽団とチャイコフスキーの第1番、来年は読売日本交響楽団と共演できることも楽しみです。

話をちょっと変えて・・・以前雑誌にも掲載されていた、ご自宅で飼っている猫について教えてください。ウォン、キョン、シンという名前の由来は?

 「ウォン」は、その時コンクールに出て勝ちたいなと思って、ウォン(英語で「勝つ」の意味)と名付けたんです。なんで過去形にしたのか分からないですけど。「キョン」は、その当時大ブレイクしたNHKドラマ「あまちゃん」を母が大好きで見ていて、ヒロインのお母さん役が小泉今日子さんだったので、キョンキョンという名前にしました。「シン」は、みんなでどうしようと悩んで、誰かの文字を取ろうと。結局、私の「真央」という名前の真を音読みしてシンになりました。本番前に緊張した時など、猫たちと戯れていると童心に返れるので、とっても良い癒しの存在ですね。楽屋に連れていくことはできませんが、ウォンちゃんは家ではずっと私と一緒に寝ていますよ。今の季節は来てくれると暖かいし、枕元で大活躍(笑)。ロシアンブルーなのですが、すごく抱っこを嫌がるんです。最近、女優さんのインスタグラムで、同じロシアンブルーが抱っこされている写真を見て、私も負けじとウォンちゃんを抱っこしようとしましたが、ひどくひっかかれました!同じ種類でも全然違うんですよ。

5月の「アクト・ニューアーティスト・シリーズ」の聴きどころについて教えてください。

サン=サーンスはフランス近代作曲家ですが、その時代に書かれたバロック舞曲の「ガヴォットハ短調Op.23」は近代の和声でありながら形式はバロックなので面白いです。小曲ですけど楽しみですね。あとはドビュッシー没後100年ということで、普段あまり取り上げない曲を2曲入れました。そのほか、ショパンのソナタ3番は1月に録音するCD にも入れる作品です。3番はいつ弾いても難しいですが、成熟した演奏にしたいと思います。

これからどんなピアニストになっていきたいですか?

 やはり、「また聴きたい」と思ってもらえるピアニストになりたいです。「音色が良かった」とか「テクニックが素晴らしい」とか、「和声的なものが感じられた」とか、何でも良いのですが、どんな形であれ、また聴きに来ていただけるピアニストを目指したいですね。お客様に良い演奏を届けられるようにすることが第一だと思っています。

今後の夢や目標などがあれば教えてください。

 どうなるかはわかりませんが、結婚したいという願望はあります。30歳前くらいですかね(笑)。
大学である先生にお聞きしたのですが、ピアノって結局ソロコンサートが多いので、家に帰ってまで1人だと精神的に辛いものがあるから早く結婚した方がいい、とアドバイスをいただきまして(笑)。
家に帰ると人がいる安心感っていうのはいいよと言われましたね。ピアノに関していえば、チャイコフスキー、ショパン、エリザベートなど、何かしらの大きなコンクールはいつか受けなければいけないと思っています。個人的には、師事している野島稔先生が2位を獲られているヴァン・クライバーンを受けてみたいですね。
少し前、野島先生に「(ヴァン・クライバーン)受けてみたいです」って言ったら「まだ早い」と言われて。クララ・ハスキルも早いと言われたんですけど、ダメもとで受けたらビデオ審査に通過しました。「受けるの?」って言われたんですけど、「お願いします!」と。それでも、運が良かったのか優勝することができました。出番が深夜0時を回ることもありましたから、疲れました(笑)。初めての体験でしたが、その時湧き出てくる不思議なインスピレーションもありました。

浜松の印象を教えてください。

 今日、久しぶりに新幹線で浜松に来ましたが、2年前のピアノアカデミーが再現されたようなちょっとピリッと引き締まる感じがしました。浜松のように、こんなにピアノに囲まれている地域ってないですよね。駅に降りるとピアノが3台もあって・・・海外に行くと空港や駅にピアノが置いてあることがありますが、日本はほとんどないですから。浜松の国際ピアノコンクールも町をあげて応援している。日本人として誇りに思います。クラシック音楽の魅力を掘り起こしてくれる良い町だと思います。

最後に、浜松のファンの皆さんにメッセージをお願いします。

 全身全霊をかけて、一曲一曲を手掛けたいと思います。皆様の元に素晴らしい音楽が届くように力を尽くしますので、それを感じとっていただければ嬉しいです。
 

1月にアクトシティ浜松中ホールで新アルバムのレコーディングを行った藤田さん。収録の合間に訪れた、浜松で有名な『炭焼きレストランさわやか』でのオフショット。

藤田 真央

©Shigeto Imura

1998年東京都生まれ。3歳からピアノを始める。2017年、東京音楽大学1年在学中に、第27回クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝。
併せて「青年批評家賞」「聴衆賞」「モダンイズム賞(新曲賞)」の特別賞を受賞し、一躍世界の注目を浴びる。
幼少のころから国内外での受賞を重ねると同時に、2013年に初めてのリサイタルを開催。以降、国内はもとより、各地でリサイタル、オーケストラとの共演を行なっている。CDはナクソス・ジャパンからリリース。現在、特別特待奨学生として東京音楽大学1年ピアノ演奏家コース・エクセレンスに在学し研鑽を積んでいる。平成29年度公益財団法人青山財団奨学生。

アクト・ニューアーティスト・シリーズ2018
藤田 真央 ピアノ・リサイタル

2017年 第27回クララ・ハスキル国際ピアノコンクール 第1位
2016年 第20回浜松国際ピアノアカデミーコンクール 第1位


2018年5月27日(日) 15:00開演 
●アクトシティ浜松 音楽工房ホール
●入場料(全席自由)
 一般 2,500円
 学生 1,000円(24歳以下)

公演の詳細は、こちらをご覧ください。