内容
石膏を用いた作品で知られる中谷ミチコ(1981-)。近年では東京メトロ虎ノ門駅に設置されたパブリックアートを手掛けるなど、精力的に活動を続ける彫刻家です。凹凸が反転した作品は、一見すると浮彫のように見えますが、ある時、それは存在しないくぼみだと気付かされます。視覚の混乱により、「あること」と「ないこと」が交錯するように感じられる作品は「不在の彫刻」とも呼ばれ、見る者に存在することの不確かさを問いかけると同時に、目に見えるものを超えた気配のリアリティをも感じさせます。
不在を通して存在を表現するというテーマは、秋野不矩(1908-2001)の《廃墟》シリーズなどにも通じます。彫刻や絵画といったジャンルの違いを超えて、二人の女性作家が日々の営みを土台とした視点から生み出す作品は、私たちの生活の中で忘れられがちな、けれども大切にしたい手触りを提示してくれます。
本展では「不在」や「気配」といった両者の共通点をキーワードに、《影、魚をねかしつける》などの中谷の大作に加え、この展覧会のために制作された新作やドローイングを、当館が所蔵する秋野の代表作とあわせて展示します。2人の作家の作品と当館の特色ある建築が響き合う本展は、それぞれの魅力をさらに引き出すと同時に、私たちの日常を眼差す新たな視点に出会う機会となるでしょう。
中谷ミチコ《デコボコの舟》2022年 作家 蔵 撮影:若林勇人