Series No.100 三浦 一馬
2015年9月13日に行われたアフタートークの様子をご紹介します。
Q.バンドネオンを購入したい場合、どこへ行ったらいいでしょうか?また、値段はどのくらいでしょうか?
三浦:僕はいろいろな所で演奏させて頂くのですが、特に西に行くにつれて値段について聞かれることが多いような気がするのは気のせいですよね?(笑)この楽器は非常に珍しい楽器で、実は現在ほとんど作られていないんですね。ほとんどと言っても本当にゼロに等しいくらい、ほとんど作られていないという形なんですね。ですからバンドネオン奏者の方は、だいたい使っている楽器はかならず古いものを探してきて、もし使えない状態なら修理して演奏していく、そしてそれを受け継いでいくという形を残念ながらとっていますので、簡単に楽器屋さんで買えるものでもないんです。僕自身が今日使っている楽器は、アルゼンチンの師匠のマルコーニ先生から直々に譲っていただいた貴重な楽器です。もしバンドネオンが欲しい・弾いてみたいという方がいらっしゃった場合、僕自身もそうなのですが、ネットオークションで検索したり、あるいは業界のつてを頼ったりというのはよくやる事です。ただ、いきなり買うにしてもやはり値段がピンキリとは言っても、安いものでも何十万から百万近くいく事もあったりするので、なかなかすぐに買うのは難しいかもしれません。バンドネオンの愛好会など、趣味で弾いていらっしゃる方のクラブというのも日本に何個かあったりしますので、入会して体験させてもらう事もできるかもしれません。それでもいづれ将来の事を考えると、浜松は楽器の町ですからレプリカでも何でもいいので復刻させて頂けると、我々演奏家のみならず本当に弾きたいと思っていらっしゃる方も手が届くのではないかなと思う所です。
Q.お二人に質問なのですが、ご自身が過去にお客さんとして行ったコンサートで、最も感動したのはどなたのどんなコンサートでしょうか?
三浦:ちょっと悩む質問ですね。もちろん感銘を受けたり衝撃を受けたりしたコンサートというのは聴衆としても経験がありますし、実は出演者として舞台に上っていた時であっても共演者から受ける刺激というのは沢山あります。一聴衆としてという事だと、やはり僕は現在の先生であるマルコーニ先生に付くきっかけとなったコンサートがやはり一番大きくて、僕の人生を決定づける事にもなりました。それは2006年の春ですが、九州の別府で開催している『別府アルゲリッチ音楽祭』という国際的な音楽祭があって、ピアノの巨匠であるマルタ・アルゲリッチさんが出演されるコンサートです。そこにアルゲリッチさんと僕の師匠のマルコーニさんが一緒に演奏されるものがあって、それを聴いた時は衝撃をはるかに通り越して身体に何百万ボルトの電流を浴びたかの様な衝撃で、演奏会が終わってもしばらく席から立ち上がれなかったのを覚えています。その演奏を聴いて僕はアルゼンチンに行く事を決心しましたし、それが無かったら今の僕はいないと思っている位です。
有吉:僕はジュネーブに留学していたのですが、そこでラドゥ・ルプーが本編のコンサートではオーケストラと『皇帝』を弾いてそれも素晴らしかったのですが、アンコールでモーツァルトのソナタの二楽章を弾かれた時に左手がノンレガートで弾いていて、そういうすごい世界を初めて聴いて背筋がぞくぞくっとして、短い曲なのにあんなに純粋な世界を築けるというのが素晴らしいなと思いました。
Q.一番気に入っていて、思い入れがあって弾いている曲を教えて下さい。
三浦:やっぱり僕の中でアストル・ピアソラというバンドネオン奏者、作曲家は欠かす訳にはいかない、彼なくしては僕の音楽人生を語れないところがあります。僕がバンドネオンを始めた十歳くらいの頃からピアソラばかりを聴いていまして、親に買ってもらったラジカセを枕元に置いてピアソラのCDを山積みにしていた様な少年でした。今考えてもなかなか渋いというか何というか(笑)でもやはりそういう育ち方をするとどうしても身体に染み付いているものがありまして、実際に僕が大事にしていて弾き続けているのは、今日の二部のオープニング曲でもある『オブリヴィオン』という曲です。一番初めにこの曲を聴いてバンドネオンを弾く決意をしたんですね。ですから今日もプログラムの中に入れていますし、今日まで大事にしていますし、これからも大事にしていくでしょうし、そんな作品です。
Q.三浦さんのアルゼンチンでの生活について聞かせて下さい。また、有吉さんはクラシックの演奏と今日のようなジャズやタンゴの演奏を比べてどう思うか聞かせて下さい。
三浦:僕は一時期アルゼンチンに住んでいた事がありますが、実はそれよりも日本とアルゼンチンを往復する事の方が多いです。そんな中で感じるアルゼンチンの様子というのは、外の人間だからこそ感じる所というのが僕の一番大きな捉え方なんですね。例えばアルゼンチンはお肉がおいしくて、赤ワインも香り高くて、サッカーも有名な国で、ある意味ワイルドに見えるような国柄ではありますが、どこかやはり繊細で必ずしも陽気なだけではない雰囲気というのを所々感じる事があります。それを象徴しているのがもちろんタンゴだと思いますが、人々の暮らしの中にどこかそういった瞬間が見える所があって、ですからタンゴという音楽が皆大好きなのだと思います。それ以外ですと、どうしても僕はタンゴやバンドネオンを勉強しに行くので、そこの部分をやはり一番見てしまうのですが、僕はタンゴと日本の演歌が非常に似ているなというイメージがあります。それは日本人としての感覚で、皆が音楽に向き合っている雰囲気というのが既視感があって、それが何なのかと振り返ってみると日本の演歌だったんですね。あれもやはり人々の為にあるもので、決して上流階級の人の為の音楽ではないですし、一般民衆の為の音楽で。その中で悲しみや嘆く心を込めているというのが、日本人としてアルゼンチンに行ったからこそ思う所だなという気がしています。
有吉:僕がピアソラなどのクラシックとは少し違う感じの音楽に出会ったのは、二年前に小樽でマスタークラスがあったのですが、そこであるホテルに泊まっていて、ある日三浦君の演奏を聴いて、もう一人の一緒にいた子が三浦君に「今日の夜、弾かない?」という事を言っていて、その夜にホテルのバーでなにも合わせる事なくちょっとした曲を弾きました。それが始まりで、その後に三浦君からいろんなコンサートに誘って頂いてピアソラやガーシュウィンなどの曲を弾くようになりました。僕はずっとクラシックを勉強していて、どこかフィルターを通して整頓しないといけない、きれいにしないといけないという事があって、すごく時間がかかって大変だと思っていたのですが、ピアソラやガーシュウィンなどの曲に出会って、今の感情を表向きにできるというのがすごく素晴らしい事だと思いました。三浦君が演歌と言いましたが、僕の親はクラシックから程遠い人達で、小さい頃は車の中でずっと演歌が流れていたんですね。それで今タンゴと演歌が似ているという話を聞いて、薄々は感じていたのですが、小さい頃にずっと聴いていた音楽と共通項がある様な気がして懐かしくもあり、斬新で新しい発見があったりすごく勉強になっています。
Q.車で1時間20分、、、愛知県新城市から楽しみにしてまいりました。楽しい時間!ありがとうございました。お忙しい毎日でしょうが、Offの時はどのようにお過ごしでしょうか?
三浦:すごく遠い所からお越し下さった様で本当に感謝しております。ありがとうございます。車で1時間20分と聞いて思わず気になってしまいましたが、実は僕は無類の車好きでしてドライブが大好きです。だから車で行けるところにはなるべく車で行きたいと思っています。時間がある時はルートも決めずに思いつくままに車を走らせて気分転換する事もあり、静岡や長野まで車で行く事もあります。また運転はもちろんですが、車の中は完全に自分だけのプライベートな空間ができるので、思いっきり好きな音楽をかけたり、考えなくてはいけないことがある時は頭の片隅でぼーっと考えているといいアイデアが浮かんだりするので、僕にとって車は良き相棒です。
有吉:僕は何をしているんでしょう?(笑)思いついた様にスーパーに行ったり、特に決めていることはなくて。音楽もそういった感じで別に好きな作曲家がいる訳ではなく、今好きな音楽をやるといった感じです。その日に何をやろうとかは特に考えず毎日を過ごしています(笑)