Series No.91 中野 翔太
12月15日に開催される「アクト・ニューアーティスト・シリーズ2013」の第4弾、ピアニストの中野翔太さんにニューヨークでの留学生活、今後の抱負について語っていただきました。
こういう性格なので興味あることはとりあえず集中してやってみようかなっていう感じです。
――ピアノを始めたきっかけを教えてください。
母が家でピアノを教えていたので、物心がついた時からピアノという楽器が傍にありました。最初はおもちゃ代わりにして遊んだりしていたのですが、ある時、ピアノリサイタルの映像をビデオで見て、僕もこんな風になりたいなと思って、僕の方から母に「ちゃんとピアノを勉強したい」と。それがきっかけで始めました。
――ピアニストになろうと思ったのはいつ頃ですか?
ピアノを始めた時から、漠然とピアニストになりたいと思っていたのですが、全日本学生音楽コンクールで優勝させていただいて、それからしっかりとビジョンを持ってピアニストとしてやっていこうと思いました。
――1999年からアメリカに留学されたそうですが、そのきっかけは?
前にワシントンの日本大使館でリサイタルをさせていただいた事があって、その時に聴きにいらしていた指揮者のレナード・スラットキンさんが、僕の演奏をすごく気に入ってくださったんです。スラットキンさんが「ジュリアード音楽院にカプリンスキー先生という、素晴らしい先生がいるから紹介してあげるよ」ということでお話が進みました。それから、何回かレッスンを受けて、そのレッスンが自分にしっくりきたので、ニューヨークへ行こうと決めました。
――それからはニューヨークに移り住んだのですか?
ジュリアード音楽院にはプレ・カレッジという、日本でいう高校3年生までの子供達が通う部門があるので、そこに毎週土曜日通って、平日はPCS(プロフェッショナル・チルドレンズ・スクール)という、音楽家やダンサーなどの卵達の為に時間割をプロフェッショナルの活動を優先して自由に組める学校へ通っていました。
――お一人で?
最初は母と住んでいましたが、その後は一人で。
――語学は大丈夫でしたか?
日本にいた時から英会話教室に通っていたのですが、そんなにぺらぺらしゃべれるわけでもなく、最初の数年間は結構苦労しましたね。
――留学生活はいかがでしたか?
アジアも含めていろんな国から学生が来ていたので、毎日刺激を受けながら過ごしていた感じです。日本にいたのではなかなか経験できなかったと思います。
――ニューヨークでお勧めの場所は?
カーネギーホールですかね。世界に誇るコンサートホールなので、もちろん音響も素晴らしいですし、一流の演奏家たちの演奏会をたくさんやっていますので、お勧めです。あとは、ジュリアード音楽院のあるリンカーン・センター内にはメトロポリタン歌劇場があって、世界でも有数のオペラの殿堂ということで、シーズン中は数多くの魅力的な公演が目白押しです。
――チケットは日本と比べていかがですか?
最近は少し高くなったと思いますが、日本に比べたら安いですね。ジュリアード音楽院の学生だったころは、学生割のチケットがあったので、すごく便利でした。
――小澤征爾さんと何度か共演されていますが、小澤さんと共演されていかがでしたか?
最初に共演させていただいたのは、まだ10代の頃だったので、音楽的にもまだそんなに成熟はしていなかったのですが、色々とアドバイスをしていただいて、リハーサルも念入りにされて、そこが特に印象に残っています。
――今後共演してみたい指揮者は?
サイモン・ラトルさんやウラディーミル・アシュケナージさんですね。アシュケナージさんとは来年の6月に共演させていただけることになりまして、今から楽しみにしています。
――オフの時はどのように過ごされていますか?
映画を観るのは好きなので、映画をよく観たりします。あとはF1が好きなので、F1のシーズンの時はテレビでいつも録画して観ています。
――実際見に行かれたりしましたか?
2年前に初めて鈴鹿サーキットへ観に行きました。エンジン音もスピードも想像以上に迫力があり驚きました。約1時間半のレースがあっという間でしたね。
――車に興味をもたれたきっかけは?
もともと子どものころから車が好きだったので、たまたまチャンネルを回して、F1のレースを観て、それからはまり出しました。
――今、はまっていることはありますか?
自転車に乗ることです。家の近くにすごく気持ちがいい大通りがあって、きれいな並木通りなんですけど、そこを自転車で走ると気持ちがいいんです。
――最近、ジャズ・ピアニストの松永貴志さんとたびたび共演されていますが、ジャズに興味を持たれた理由は?
ニューヨークというと、もちろんジャズの本場の場所でもありますし、「ヴィレッジ・ヴァンガード」など老舗のジャズクラブもあるので、時間がある時は一流のジャズの演奏家たちの演奏を気軽に生で聴く事が出来ました。ジャズは音楽理論などクラシックに近いものがあるのですが、即興、リズムの感じ方などクラシックとは違うアプローチの仕方が必要なので、そういった点にすごく興味を持っています。僕がニューヨークへ行って5年目くらいの時たまたまニューヨークへ来ていた松永さんと出会って、松永さんはクラシックに、僕はジャズに興味を持っていたのでそれぞれのジャンルの曲を弾き合いっこしたりしていました。それから何度か会う中で、一緒にコンサートをやろうという話になりました。
――誰かに師事したりしていますか?
いないですね。独学です。ジュリアードにいた時に、クラシックの演奏家のためのジャズの授業があったので、それは受けていました。
――今後どんなことに挑戦していきたいと考えていますか?
アーティストとして幅広く活動していきたいです。当然クラシックの演奏家としての活動がメインですが、松永さんとの共演なども定期的に行っていけたらと思います。また、自分で作曲もしているので、そういった自作の曲をステージ上で披露できたらいいなと思っています。こういう性格なので興味あることはとりあえず集中してやってみようかなっていう感じです。
――今回のプログラムについてお聞かせください。
クラシック、現代曲、そしてクラシックとジャズを融合したガーシュウィンと、3つの違った形のものを取り入れようと考えています。この3つをうまく組み合わせて、全体を通して楽しんでいただけるプログラムになればいいなと思っています。
現代曲に関していえば、コリリアーノの「エチュード・ファンタジー」を演奏しようかなと考えています。この曲はジュリアード音楽院に行ってから初めて聴いた曲で、その時にすごく衝撃を受けて、いつか弾いてみたいなと思っていた曲なので、ぜひ多くの方に聴いていただけたらと思っています。現代曲ですが、初めて聴いてもすごく聞きやすい曲だと思います。
プロフィール
1984年、茨城県つくば市に生まれる。江戸弘子に師事。ジュリアード音楽院に進み、ピアノをカプリンスキーに、室内楽をパールマンに師事、2009年に卒業。明治安田生命クオリティオブライフ文化財団、財団法人江副育英会の助成やソニー・フェローシップ・グラントを受けた。
これまでにバーメルト指揮/N響、デュトワ指揮/N響、小林研一郎指揮/読売日響、小澤征爾指揮/ウィーン・フィル、大阪センチュリー、関西フィル、新日本フィル、都響、日本フィル、またロストロポーヴィチ等と共演。
2012年6月、セカンドアルバム「-マンハッタン-中野翔太プレイズ・ガーシュウィン」がレコード芸術誌特選盤および優秀録音盤に選出。第15回出光音楽賞受賞。