Series No.89 金子 亜未
7月15日に開催される「アクト・ニューアーティスト・シリーズ2013」の第2弾、オーボエ奏者の金子亜未さんに国際オーボエコンクールのお話や札幌交響楽団に入団した経緯など、オーボエの魅力について語っていただきました。
一番好きなのは感動系の映画ですが、最近は007を観ました(笑)。映画を観ていると使われている音楽も気になるんです。
――9歳からオーボエを始められたということですが、どのようなきっかけで始められたのですか?
小学生の時に学校の管弦楽団に入ったのですが、オーボエの人数が足りないからと勧められて、やってみることにしました。ピアノ教室に通っていて、教科書でオーボエという楽器は知っていたのですが、その時はまだすごく難しい楽器だという意識はなかったので、先入観もなく始めました。他にもヴァイオリンをやってみたいなとも思いましたし、フルートにも興味があったので、試したこともありましたが、やっぱりオーボエのほうが好きだと思い、現在まで続けています。
――練習はどれくらいされていたのですか?
小学校の時はずっと合奏をしている形だったのですが、毎日、朝30分、夕方2時間くらい練習をしました。中学では、最初は吹奏楽部に入ったのですが、小学校の時から入っていたジュニアオーケストラをやっぱり続けたいと思ったので、吹奏楽部はやめて、ジュニアオーケストラだけに絞って、週1回通っていました。その団体自体は20歳までしか入れないのですが、私は高校くらいまで所属をして、後は高校の吹奏楽部に入りました。
――国際オーボエコンクールでは第2位の受賞おめでとうございます。受賞後に周りの変化はありましたか?
コンクールが終わって札幌に帰った時に、オケのみんなから「おめでとう」と言っていただいて、とてもうれしかったです。今回のコンクールはネット配信もされていたので、多くの方に見ていただけたようで、「あの曲良かったね」など、たくさんコメントをいただきました。でもやはりずっと憧れていたコンクールだったので、受賞したという責任感は増しましたね。
――札幌交響楽団での活動の様子を教えてください。
オーケストラの中で吹いたり、特別業務と言って、数人で集まって病院や札幌駅に行って演奏したりしています。あとは楽団とは別に自分たちでグループを組んで、いろいろなところに演奏しに行くこともあります。アンサンブルなどはオーケストラとは違って、少人数でいろいろなことをやらなければならないという点で難しいですね。
――首席オーボエ奏者ですが。
特にオーケストラの音色を変えやすいのはオーボエかなと思っていて、しかもヴァイオリンのトップのコンサートマスターと密にコンタクトを取って管を引っ張っていかなくてはならない立場が、オーボエの首席だと思います。その点では、ベテランの人たちを動かしていかなければならないということは、まだ周りに比べて若い私にとっては大変だと感じます。いかにみんなを引っ張っていくかということがこれからの課題ですね。
――入団のためのオーディションはどのようなものでしたか?
札響の場合はモーツァルトのコンチェルトを吹いて、後はオーケストラスタディと言って、オケの目立つ部分をとって集めたようなものがあって、それを演奏しますが、楽団のみなさんがその演奏を聞くと、この子は自分のパートのことを思って吹いてくれているというようなことが分かるんです。首席としてどうかということももちろん見られていますが、一人の人間として、この人を入れたら楽団としてうまくいくかということも見られています。
――札幌交響楽団に決めた理由はなんですか?
大学を卒業してすぐに入れてもらえるオケというのはあまりないですし、ましてや首席として入れてもらえることは珍しいことです。でも札響の事務局長の方は若い子をどんどん育てていこうというお考えの方なので、まずは受けてみようと思いました。本当は実家を離れたくない気持ちもあったのですが、何度か学生時代にファーストで呼んでいただいたことがあってオーケストラの雰囲気も気に入っていましたし、北海道の空気も好きだったので、札響に決めました。
――札幌での生活はいかがですか?
初めての一人暮らしで、車を使う生活になったという点が変わりましたが、食べ物もおいしいのでとても充実しています。最初は自炊をしていましたが、今は外食ばかりですね。これから自炊も再開していかないと、とは思っています(笑)。札幌は雪が多いのはやっぱり大変ですが、森がたくさんあって、空気が澄んでいるところが魅力的ですね。札響の本拠地のホールがとてもいいところで、吹きやすい点も魅力の一つです。オーボエの先生からせっかく札幌に住んでいるのだから、ウインタースポーツをやってみてはどうかと言われたので、スキーも始めてみました。今までやったことがなくて、まだ3,4回しか行っていないので、怖くてうまく滑れませんが。
――お休みの日は何をしていますか?
近隣の場所に遊びに行ったり、車を運転するようになったので、ちょっと遠出をして小樽に行ったりすることもあります。オーボエ以外の趣味は手芸です。高校は家政科に通っていたんです。今でも時々ビーズでミッキーなどのキャラクターを作ったり、アクセサリーを作ったりします。
――今ハマっていることはありますか?
雑貨を集めることが好きなので、そういうものを集めたり、最近は車に乗るようになったので、運転することも好きです。基本的に運転をするのは仕事の時に移動するくらいですが、ショッピングモールに行ったりするときも運転します。もう少し雪が解けたら、遠出もしたいなと思っています。最近は温泉にもハマっているので、自分でそこまで運転して行ってみたいなと思います。雪が解けたらゴルフとかもやってみたいなと思います。打ちっぱなしなどはやっているのですが、なかなかうまくなりませんね(笑)。札響でゴルフがうまい人がいるので、教えてもらいながら練習したいです。
――オーボエの難しさはどんなところですか?
オーボエで一番大変なのはリード(発音体)作りだと思います。リードは楽器屋さんでも買えますが、演奏者自らが作ることが多いですね。私は大学に入ってからリード作りを始めたのですが、作れるようになるまでに早くても半年くらいはかかるんです。材を選ぶところから始まって、加工したり削ったりして作るのですが、リードの出来で演奏がかなり左右されるので、重要な工程です。自分の好みに合わせて作らないとなかなかうまく吹けないので、うまく作れない時はどうしようかと思います。とにかくリード作りは奥が深くて、チューブの感じや糸の巻き加減、角度などが少し違うだけでも音が変わってしまいます。こうしたらいいんじゃないかと思って作っても裏切られることもありますし、適当に作ったものが良かったりするので、難しいですね。「葦」という素材で出来ているのですが、葦がすごく良いものだったら何回本番で吹いても使えますが、一回でだめになってしまうこともあります。他には指の配列など、持ち方の難しい楽器なので、その中で速いパッセージをやらなくてはいけない時は難しいと感じますね。
――オーボエの魅力はどんなところですか?
オーボエのリード作りが難しいと言いましたが、逆にうまくできたときにはすごく喜びがありますし、そのいいリードで吹けたときの吹きやすさを実感したときに魅力を感じます。音色もオーボエの魅力だと思います。一人一人全然違う音色があるので、そこも面白いですし、他の楽器に比べて、音色がまとまりやすいと感じます。私が今使っているのはマリゴのセミオートという種類ですが、マリゴの音色が一番好きなので愛用しています。
――表現を磨くために何かしていることはありますか?
美術作品などに触れることは大切だと思います。演奏する上で、ああいう色の感じでとかあの絵の感じでという風に演奏できるからです。千葉にいた時は美術館などにも行っていたのですが、札幌では行くところも限られてくるので、なかなか機会がないですね。その代わりに映画を観るようにしていて、感動した体験を演奏に活かせればと思っています。一番好きなのは感動系の映画なのですが、最近は007を見ました(笑)。映画を観ていると、ストーリーから何かを感じるだけではなくて、使われている音楽も気になるんです。今ちょうど札響で007やゴッドファーザーなどの映画音楽の演奏会をやっているので、とても楽しみですね。
――将来はどのようなオーボエ奏者になりたいとお考えですか?
オーボエ奏者で尊敬しているのは「ハインツ・ホリガー」という奏者です。東京で演奏を聞きに行ったときに、後ろの方の席に座っていたんですが、そこまできれいな音が飛んできたんです。その演奏を聞いて、ホリガーのような奏者になりたいなと思いました。今までコンクールなどでソロはたくさんやってきたのですが、オケの生活はまだ始まったばかりなので、オケの曲をたくさん習得したいなと思っています。プロオケに入るのは初めてですが、ジュニアオケや大学時代にはゲストとしてプロオケで演奏したことはあります。でも“自分のオケ”という中で、もっといろいろ曲を覚えたり、周りとのアンサンブルなどを勉強したりしたいです。
オーボエ奏者を目指す子どもたちに何かアドバイスをお願いします
進む道にもよりますが、やっぱりその楽器を好きになって、努力をすることが大事だと思います。私にとって努力というのは練習ですね。小さい時にいっぱい練習をしたほうが、後々役に立つことも多いと自分自身感じています。私は表現を掘り下げようと思ったのが遅かったので、ひたすら基礎練習をするなど、努力でカバーしてきたつもりです。表現力を身に着けるためには、いろいろな美術作品などを見て演奏に活かすということも、もちろん大切だと思います。
――アクト・ニューアーティスト・シリーズにご出演いただきますが、どのような演奏会にしたいとお考えですか?
みなさんオーボエの演奏を生で見る機会はあまりないと思うので、この機会にオーボエの魅力を味わっていただけるような演奏会にしたいなと思います。浜松に行くのは初めてなので、私自身とても楽しみにしています。
――最後に、当日いらっしゃる方々に一言メッセージをお願いします。
プロフィール
1990年生まれ。千葉県出身。2012年、東京藝術大学音楽学部器楽科管打楽器専攻を首席で卒業。安宅賞、アカンサス音楽賞、三菱地所賞受賞。新卒業生紹介演奏会にてB.マルティヌーのオーボエコンチェルトを藝大フィルハーモニアと共演。第79回日本音楽コンクールオーボエ部門第3位。第28回日本管打楽器コンクールオーボエ部門第1位。第10回国際オーボエコンクール・軽井沢第2位、奨励賞、軽井沢町長賞(聴衆賞)受賞。オーボエを和久井仁、小畑善昭、池田昭子の各氏に師事。12年7月より札幌交響楽団首席オーボエ奏者。